こんにちは、塾長です。
今回は、質的記述的研究の具体的な方法をご紹介します。
一度もやったことがない人も、この記事を読めば必ず質的記述的研究の方法を理解できるようになります。
質的記述的研究の攻略法【全体の流れ】
質的記述的研究って何をすればいいんですか?
研究にあまりなじみのない人にとって、質的研究は量的研究よりもわかりにくいかもしれないね。
まずは全体の流れを整理しよう。
質的記述的研究【全体の流れ】
① リサーチクエスチョンの設定 ※ 詳細は関連記事をご参照ください。
→ P (対象者)・I (介入) or E (暴露)・C (比較)・O (アウトカム) を設定する
② 概念枠組みの設定
→ 研究全体の流れ・データを分析する際の方針など、参考となる枠組みを決める
③ データ収集方法の設定
→ 質的データをどのように集めてくるかを決める
④ データ収集
→ ③ で設定した方法でデータを収集する
⑤ データ分析
→ 枠組みに従ってデータを分析する
質的記述的研究の流れを理解しましょう。
概念枠組みとは【研究の道標を手に入れろ】
概念枠組みってなんですか?
いい質問だ!
量的研究と違って、質的研究は信頼性や妥当性を確保することが難しい。
なぜなら、質的データは個人の語りや行動だからだ。
研究結果というのは他の人の役に立って意味があるわけだけど、個人の語りや行動がが他の人にも当てはまるとは限らないよね。
そこで、質的研究では特に「概念枠組み」というのを設定することが多い。
先行研究から、「一般的に言われていること」や「理論化されているもの」を引用して、自分の研究の根拠にさせてもらうんだ。
概念枠組み【研究の道標】
以下のうち、どのレベルのものでもいいので、概念枠組みを設定しておく。
大切なのは、先行研究でしっかりと検証されている概念枠組みであること。
① 経験的一般化 (経験的に一般的だと言えること・言葉の定義)
例: 清拭と患者の爽快感には関連がある (経験的・一般的に言えること)
例: 清拭とは病気やケガなどで入浴ができない場合に蒸しタオル等で身体を拭くことである (言葉の定義)
② 中範囲理論 (ある特定の状況・問題に焦点を当てた理論)
例: ケアリング (医療提供者と医療享受者で経験を共有すること)
例: レジリエンス (困難に適応する能力や過程のこと)
③ 看護理論 (看護に関することを説明したり予測したりする理論)
例: セルフケア理論 (患者が失ったセルフケア能力を補うのみならず、自立に向けたケアを行う看護についての理論)
例: ニード理論 (患者の持つ14の基本的欲求を把握し、不足したニードを補う看護についての理論)
例えば、「頚部骨折の術後疼痛でなかなか離床できずにいる患者さんに、医療者がどのように関わればいいか」を研究するとしよう。
セルフエフィカシー (自己効力感: 自分はやれるという気持ち) という概念枠組みを使ってやる気を奮い立たせるような看護を考えるのはどうかな。
ケアリングという概念枠組みを使って離床できない思いを共有する看護を考えるのも面白いね。
概念枠組みを使えば、自分の研究の方向性が固まります。
データの収集方法について【サンプルサイズとサンプリング】
質的データはどのくらいの人から集めたらいいんですか?
というか、どうやって集めるんでしょうか?
質的研究は量的研究ほど厳密にサンプルサイズ (対象者の人数) を決めないんだ。
また、サンプリング (データの集め方) は大きく2通りあるよ。
この辺りを詳しく見ていこう!
質的研究のサンプルサイズ
・サンプルサイズは厳密な決まりはない。
・まずは5名程度を予定しておいて、コード化 (詳しくは後述します) していく中で飽和 (これ以上集めても新しいデータが得られない状態) したらデータ収集をやめることが多い。
(研究計画書には「対象者は5名を予定し、コードが飽和し次第サンプリングを終了する」と書いておけばよい。)
質的研究のサンプリング
① 面接法
構造化面接 : インタビューガイド (後述) に沿った内容だけ聞く
→ 対象者から均等にデータが得られやすいが、データが偏りやすい
半構造化面接: インタビューガイドをもとに、質問を変化させながら聞く
→ 広くデータが集められるが、質問者の柔軟性が必要
非構造化面接: インタビューガイドは作らずに自然な会話の中で聞く
→ さらに広くデータが集められるが、データがまとまりにくい
② 観察法
参加観察 : 観察対象となる集団に研究者が参加しながら観察する
→ 観察対象に少なからず研究者が影響を与えたい場合や、観察対象の立場を理解したい場合に実施することが多い
非参加観察: 観察対象となる集団に研究者が参加せずに観察する
または、ビデオや通話などで間接的に集団を観察する
→ 観察対象者に影響を与えたくない場合や、観察していること自体を隠す場合に実施することが多い
メリット・デメリットを考慮してサンプリングの方法を決めましょう。
面接・観察の実施方法【インタビューガイドとフィールドノート】
実際に面接や観察はどのように行えばよいのでしょうか?
いい質問だね。
面接や観察を行うための準備を整えよう。
具体的には、面接にはインタビューガイドを、観察にはフィールドノートを準備するよ。
面接・観察の実施方法
① 面接法
・時間の設定: 面接を行う日時・面接にかかる時間を設定する
・場所の設定: 面接を行う場所の確保・テーブルやいすの配置を考慮する
・必要物品の準備: 研究説明書・同意書・※インタビューガイド・録音機器・謝礼品
・倫理的配慮: 不参加・中止による不利益がないこと・体調変化の際のフォローなど
・インタビューガイドの予行演習を行い、わかりにくい質問がないか確認する
② 観察法
・時間の設定: 観察を行う日時・観察にかかる時間を設定する
・場所の設定: 観察を行う場所の確保・部屋に置く物品の配置を考慮する
・必要物品の準備: 研究説明書・同意書・※フィールドノート・録音/録画機器・謝礼品
・倫理的配慮: 不参加・中止による不利益がないこと・体調変化の際のフォローなど
・フィールドノートの予行演習を行い、わかりにくい項目がないか確認する
インタビューガイドの例
① 導入時
「このたびはご多用の中、【研究名】にご協力いただき誠にありがとうございます。私は◯◯に所属しております◯◯です、本日は何卒よろしくお願いいたします。」
研究説明書に沿って、研究内容を説明する。特に倫理的配慮の部分は丁寧に説明する。
「研究の内容にご理解をいただき、ご参加いただける場合はこちらの同意書にご記名ください。」
同意書に署名してもらう。
② インタビュー内容
※ POINT1 5W1Hに注意し、質問の意図が正しく相手に伝わるようにする。
※ POINT2 クローズドクエスチョン (Yes/Noで回答できる質問) とオープンクエスチョン (文章で回答する質問) を織り交ぜる。
・あなたが痛みによってベッドから離れることに抵抗を感じますか? (←クローズドクエスチョンの例、Who・When・What・Whereを使用)
・あなたがベッドから離れるときに考えていることはどのようなことですか? (←オープンクエスチョンの例、Who・When・What・Where・Howを使用)
などなど
③ 終了時
「本日は貴重なお言葉をたくさん頂戴し、誠にありがとうございました。本当にたくさんのことを学ばせていただきました。いただいたお力添えを必ず研究成果に結び付けたいと思います。」
フィールドノートの例
【観察のポイント】 ← フィールドノートの上部に、観察ポイントを記載しておく。
・事実とその際に観察者が考えた事柄を合わせて記載する。
・Who: Aさん・医師・看護師の関りが見えるよう記載する。
・What: 何をしている場面なのか分かるように記載する。
・When: いつ・どのくらいの時間行われたのかが分かるように記載する。
・Where: どこで観察を行ったのか分かるように記載する。
・Why: なぜ「事実=疼痛や離床拒否」が生じたのかを記載する。
・How: 「事実=疼痛や離床拒否」がどのように・どの程度生じたのかを記載する。
時間 | 事実 (S情報・O情報) | アセスメント (A情報) |
---|---|---|
11:02 | 医師に促されAさんは苦悶様表情を浮かべながらベッドサイドで端坐位になった Aさんは「痛いから少し休ませてほしい」と話し、端坐位のまま数分休憩することとなった Aさんは前傾姿勢で過換気気味だった | Aさんは体動に伴う痛みが生じているが、医師に促されると端坐位まではできている 疼痛が妨げになって端坐位から立位まで一連の動作で動くことはできない 痛みをかばうせいか、かえって苦痛が大きくなる体位を取っている |
11:07 | 苦悶様表情は消失したため医師から再度離床を促されたが、Aさんの表情は硬かった Aさんは「痛くなければいいんだけどね」と話し、その後も立位になろうとはしなかった | 体動に伴う疼痛を予期してか、立位になることにAさんの抵抗感がある 立位訓練を進めるにあたり、Aさんは疼痛を除去することを希望している |
… | … | … |
インタビューガイドやフィールドノートの準備は念入りに行いましょう。
質的データの分析方法【コード化・カテゴリー化】
インタビューの録音やフィールドノートは、この後どのように扱えばいいですか?
収集してきた生データは、研究データに変換してあげる必要がある。
そのステップを見ていこう。
質的データの変換工程
① 録音/録画データやノート → 逐語録を作成する
・発言を省略・要約せずに全て記載する
・会話の「間」、咳払い、ため息などはカッコ書きで記録に残す
・誰の発言か分かるように記載する
・表情、身振り手振りなども可能な限り記載する
・記憶の新しいうちに作成する
② 逐語録 → コード化を行う
・発言を文章単位に分けて通し番号を振る
・発言全体を意味するタイトルをつける
・発言が意味していること、補助する文献などの情報をつける
・最終的に抽出されるコードを記載する
※ 逐語録
インタビュアー「あなたがベッドから離れるときに考えていることはどのようなことですか?」
Aさん「べつに立って歩くことが嫌なわけじゃないんですよ。手術の後に歩くことが大切だっていうのも理解しています。(2秒程度の沈黙)でも、痛いんですよね。(顔を歪ませて)動いたら痛くて痛くて仕方がない。そういうのが積み重なってくると、今度は動く気力もなくなってね。先生たちは励ましてくれるのに、情けないというか申し訳ないというか…。」
※ コード化
通し番号 | 発言 | タイトル | 解釈・補足 | コード |
---|---|---|---|---|
… | … | … | … | … |
15 | べつに立って歩くことが嫌なわけじゃないんですよ。手術の後に歩くことが大切だっていうのも理解しています。 | 離床への思い | 離床自体は嫌ではないし必要性も理解している。 | 離床は嫌ではない 離床の必要性は理解している |
16 | (2秒程度の沈黙)でも、痛いんですよね。(顔を歪ませて)動いたら痛くて痛くて仕方がない。 | 離床に伴う疼痛 | 術後疼痛の苦痛が大きく、離床を妨げている。 | 動くと痛くて耐えられない |
17 | そういうのが積み重なってくると、今度は動く気力もなくなってね。先生たちは励ましてくれるのに、情けないというか申し訳ないというか…。 | 離床できないことへの思い | 疼痛の経験が離床への意欲を低下させている。離床できないことに対し、周囲への申し訳ない気持ちを抱いている。先行研究35)によると「〇〇」ということが明らかとなっている | 疼痛体験が離床意欲を妨げている 離床できなくて周囲に申し訳ない |
… | … | … | … | … |
③ コード → 因果ネットワークを作成する
コード同士の【因果関係】・【相互補完】・【対立関係】を明確にする。
この作業によって、カテゴリー化しやすくなる。
④ カテゴリー化を行う
関連の強いコード同士をまとめていく。
さらに、関連の強いサブカテゴリー同士をつなげていく。
関連の強さは因果ネットワークを参照する。
コード | サブカテゴリー | カテゴリー |
---|---|---|
… | … | … |
離床は嫌ではない 離床の必要性は理解している | 離床の必要性に対する正しい理解 | 離床の必要性 |
動くと痛くて耐えられない | 疼痛による苦痛 | 疼痛による離床困難感 |
疼痛体験が離床意欲を妨げている 離床できなくて周囲に申し訳ない | 離床できないことへの思い | |
… | … | … |
コード化・カテゴリー化の手順を理解しましょう。
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